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弁護士の出師の表

前回の「三国志」に続いて、今回は諸葛孔明の「出師の表」です。「これを読んで泣かないものは人に非ず」と言われた名文です。劉備が死ぬ時に、できの悪い息子の劉禅を、孔明に託します。「見どころがあるようなら助けてやってくれ。才能がないなら、君が取って代わってくれ。」とまで言うんです。そこまで言われた孔明は感激し、命がけで劉禅を盛り立てることを誓います。「白帝城」の名場面ですね!
 
弱国である「蜀」を任された孔明が、このままではじり貧だということで打って出ます。そのときに、国に残した劉禅に提出したのが「出師の表」です。格調高い文章です。「先帝、創業いまだ半ばならずして、中道に崩殂せり。今、天下三分し、益州は疲弊す。此れ誠に危急存亡のときなり。」なんて、私も暗記しちゃいました! ところが、出師の表の大部分を占めているのは、主君たる劉禅に対するお説教なんです。

「臣下が頑張っているのは、先帝劉備に恩返しするためなのだから、勘違いしないように。」「自分自身を卑下するようなことを言うのは止めて下さい。」「他人の
アドバイスを聞かないようなところは良くないから直さないとダメだよ。」「しっかりと頑張って、先帝劉備の期待に背かないようにしてね!」
こんな感じで、ひたすら説教が続くんです。孔明さんは、とても偉い人だと思いますが、こういうのは止めて欲しいと、私でも思っちゃいます。こんな調子で口うるさく子供を教育したら、子供がグレちゃうんじゃないかと心配になってきます!

孔明亡き後、蜀は滅ぼされ、劉禅は捕虜となります。
そこで劉禅は宴会に招待されるんですが、ニコニコしていて本当に楽しそうだったそうです。「お国が恋しくないですか?」などと聞かれて、劉禅は答えます。
「毎日が楽しくて、蜀のことなど思い出さない。」

これは、劉禅がいかに暗愚な人かを示すエピソードということになっています。確かにそうなんですが、私には劉禅の気持ちも分かるのです。早く降参したかったのに、孔明たちのせいで、お説教されながらいつまでも「皇帝」をやらされて、本当に辛かったんだろうなと思います。もちろん、孔明たち頑張った人たちからすれば、がっくり来ちゃうのもわかりますが。。。

しかし、こういうことは弁護士の仕事でもよくあるのです。依頼者は「もういいや。」と内心思っているのに、孔明ならぬ弁護士が、やる気十分なので、なかなか「もう止めたい」とは言い出せないという場合です。
刑事事件で、不当に「自白」させられるのを防ぐということで、何人もの弁護士が、勾留されている容疑者を毎日2回ずつ訪問した事案がありました。不当な捜査に屈しないよう励ましたんですね。ところが容疑者は「いつもいつもやって来られて、落ち着いて休むこともできない」と、知人に不満を言っていたそうです。

民事裁判をしている経営者の方から、「もう負けでもいいから早く終わらせたいんだが、弁護士の先生が本当に熱心なんで、『もう止めよう』となかなか言えないんだよね。」なんて、愚痴られたこともありました。
孔明が頑張っているから、やめようと言えなかった劉禅と同じように、弁護士が熱心だから、やめようと言えないお客様も相当数いるのではと心配になります。

依頼者のために、弁護士が死ぬ気で頑張るのは本当に大事なことです。その一方、「依頼者を置いてきぼりにしてないか? お客様の要望を本当に理解しているのか?」と考えることも、弁護士にとって非常に大切なことだと思えるのです。
 

弁護士より一言


中学2年の娘が、反抗期なんでしょうか、本当に生意気です。親が注意すると、口答えしてきます。
「お前は本当に恵まれているんだよ。」なんて言うと「パパとママはどれだけ恵まれて、良い子供を持っているか分かってる? 世の中には、本当にひどい中学生が山ほどいるんだから!」なんて言い返してきます。むかっ! 私も、面と向かっては言えないお説教を一杯書いた「出師の表」を残して、家出してやろうかと思ったのでした。
 
(2015年9月1日発行 第156号)

 

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