6人の怒れる裁判員(3)

6人の怒れる裁判員(3)

「司法の常識」と「市民の常識」は、かなり違うのではないかという話です。裁判員が司法に参加したことで、常識の違いが明らかになってきました。
以前書きましたが、性犯罪では、量刑が1.5倍くらい重くなったのではと実感しています。逆に言えば、それまでの司法の基準が、一般市民には受け入れられないほど軽すぎたのでしょう。

 

その一方、裁判員制度になってから、無罪判決がたくさん出るような犯罪もあります。覚せい剤などの薬物を、国内に輸入したような事案ですね。「人に頼まれたから、何かわからず運んであげただけ。」などと説明する人はたくさんいます。私なんか、そんなアホなことあるかよ!と思います。これがかつての「司法の常識」だったはずです。ところが、こういう事件に対して、続けざまに無罪判決が出たのです。
要は、「そんな風に騙される、少々抜けた世間知らずが本当に居るのか」という点についての判断です。
これまでの「司法の常識」では、「そんな人、居ないだろう。絶対、薬物だと知っていたに決まっている。」だったのですが、「いやいや、そういう人がいても不思議ではない。」というのが「市民の常識」だったのでしょう。だから、多くの無罪判決が出たのです。正直、これなんかどっちが正しいのか考えてしまいます。それでも、市民の常識を採用すること自体は、絶対に正しいことだと思うのです。

 

こんな風に、刑事裁判には少しずつ、「市民の常識」が入ってきています。しかし、裁判になる前の、例えば逮捕勾留の段階で、本当にこれでよいのか、一般市民の考えを聞いてみたいことはたくさんあるのです。事件によっては、ほぼ容疑が固まり、容疑者の家に家宅捜索にはいって証拠も確保してから、1年ほどほっておいた後に、逮捕勾留するケースがあります。「逃げる恐れ、証拠を隠す恐れがあるから」というのが、司法による説明です。でも私には、こんな説明常識外れにしか思えません。逃げるのなら、1年の間に逃げるでしょう。証拠だって、その間にいくらでも隠せます。「何をいまさら!」という気持ちを抑えられないのです。この辺のところを「市民の常識」ではどう考えるのか、聞いてみたいところです。

 

民事訴訟の場合にも、あまりに常識外れと思うところがたくさんあります。例えば、名誉毀損などの損害賠償の金額が、あまりに安すぎないかと思っています。日本の場合、名誉毀損などの不法行為は、特にマスコミによる場合、「やったもの勝ち」と言われています。あることないこと書いて、人の名誉を傷つけて、雑誌の売り上げを大きく伸ばします。後から訴えられた場合、どんなに高くても何百万円か支払えば終わりです。こういう事件にも、裁判員が加わったら、どういう判断がなされるのか興味があります。

 

そういえば少し前に、線路に入ってしまった認知症の老人が列車にはねられて、ダイヤが大幅に遅れたなんて事件がありました。この老人の責任が裁判で争われて、多額の賠償金が遺族に請求されたということです。これだけ見ると、別に変なことはありません。
しかし、現代の日本では、認知症の老人が幹線道路に迷い込んで、車に轢かれた場合には、遺族は損害賠償を請求されるどころか、保険から3000万円近くを受け取れます。車と列車とで、なぜこんなに違うのか、私は心底不思議なのですが、この点が問題だと主張している法律家を知りません。私なんか実務家として、認知症の老人を持つ家族に対して、「鉄道の側から引っ越して、幹線道路の近く住むといいよ。」とアドバイスしたくなります。(おいおい!)
「司法の常識」を「市民の常識」で批判し、修正する余地は、まだまだあると感じているのです。

弁護士より一言

「私の話を真剣に聞いて!」と妻からよく怒られます。私が法律相談でお客様と話しているのを見た妻から言われました。「本気出せば、あんなに親身に話を聞いて、相談に乗れるんじゃない。」「これからは私も相談料払うね!」この話を先日、若手弁護士の結婚式のスピーチでして、奥さんの話を真剣に聞いて、夫婦円満に!との言葉を贈りました。まずは自分が実行しないと。ううう。。    (2016年8月1日発行 第178号)

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