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第182号 弁護士の「約束」

五代将軍、徳川綱吉に、「生類憐みの令」ってありますよね。「お犬様」を人間よりも大事にした、天下の悪法として有名です。綱吉自身も、この法律の評判が悪いことは知っていたので、死ぬ前に、養子である次期将軍家宣(いえのぶ)に約束させたそうです。「将軍の代が変わっても、絶対に生類憐みの令は継続する。」という約束です。
綱吉の死後、幕府では、この約束を守るべきかどうか、大問題になりました。現代では、政治家が選挙のときに行う約束、「公約」にも、同じような問題があります。政治家が「公約」を破ることは、一国民として面白くありません。

もっとも、第2次世界大戦を終わらせた、鈴木貫太郎首相だって、選挙のときは「戦争に絶対勝ちます!」なんて約束していたはずです。当選から数か月で「全面降伏」だなんて、完全な公約違反ですけど、それを非難する人がいるとは、聞いたことありません。
弁護士の場合、こういった天下国家についての「約束」とは無関係ですが、仕事柄多くの「約束」に係わっています。 約束を破ることが、法的に認められている場合も一杯あります。
高利で消費者金融からお金を借りた場合は、返済の「約束」を破ってもよいことになっていま す。しかし、こういうのは例外でしょうね。一般的には、「約束」を破ることは、非常に問題です。しかし困ったことに、弁護士の関与する約束も、相当数が破られちゃうのです。

犯罪を起こした人は、弁護士を通して、被害者と示談します。示談できれば、罪が軽くなりますから、弁護士としても必死です。犯人に示談金があればいいのですが、お金がない人も沢山います。そういう場合には、後で支払うという約束で、示談することになります。
しかし、刑事裁判が終わると、そんな約束を平気で破る人は沢山います。弁護士とし ても、「この人、約束を本当に守れるのかな?」なんて思っても、示談を進めるしかありません。まさか相手に、「自分の依頼者は多分約束を守らないですよ。」なんて言えないのです! 犯人のために裁判で、親や奥さんは情状証人になります。「しっかりと監督して、二度とこのようことはさ せません!」なんて、裁判の場で約束して貰うわけで す。
しかし中には「そんな約束できません。」と言って、弁護士を困らせる方もいます。例えば、犯人のご両親から、「うちの息子は、親の言うことなんか聞きません。監督するなんて安請け合いしても、守れる自信はありません。」「いい加減に約束して、守れなければ、今度は私が罰せられるんでしょう?」なんて言われちゃいます。
もちろんそんなことないですよ。犯人自身にも、裁判の場で、「もう二度としません」と約束してもらいます。しかしこれができない人がいます。
「将来の自分がどうなるかは、自分でも分からない。そんな不誠実な約束はできない!」なんて言うんです。「犯罪なんて不誠実なことやっといて、いまさらなんだよ!」と、思わず突っ込みたくなります。

「裁判官は、あなたの未来予測を知りたいんじゃない の。あなたの、現在の強い決意を知りたいの!」なんて説得します。考えてみますと、裁判官だって、本人 や親族の約束を、本気で信じているわけじゃなさそう です。世間の人の方が、裁判関係者よりも「約束」を 真剣にとらえているように思えてきたのでした。

弁護士より一言

私も子供たちと、軽い気持ちで多くの「約束」をして来ました。「どこかに連れて行ってあげる」みたいな約束です。でも、いろいろと都合がつかなくて、 約束を破ることもよくありました。最近は子供たちも、親の約束は話半分に聞いてくれますけど、小さい頃は、約束を本当に楽しみにしていたようです。
「絶対に大丈夫?」なんて何度も聞かれました。そこで、「大丈夫。インディアン嘘つかない!」なんて適当に返答してたんです。「パパって、インディアンな の?」と、真剣な顔で子供に聞かれたときに、心から反省しました。軽い気持ちで「約束」するのは、仕事の上だけにしようと誓ったのでした。(おいおい!)
                                     (2016年10月1日発行 大山滋郎)

 

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